鍼(はり)
当院の施術の軸となっているのが鍼治療です。
鍼治療はいつ頃から行われているの?
古くは「石」を用いたのが鍼治療の始まりなのではないかと言われています。
しかし、世界で初めて鍼が使われたのがいつなのかについては諸説あり、世界初の鍼についても石ではなく骨や木や竹などであったかもしれません。
現存する(発見された)古代の遺物から推測するしかないため確かなことはわかりません。
今も発掘調査により鍼と思われる遺物が発見されることがあり、今後も新たな発見があるでしょう。
そこがとても楽しみです。
600年代には既に日本国内でも鍼治療が行われていたようです。
その時代は誰もが鍼灸を受けられるという時代ではなかったでしょうが、当時の行政の中に鍼治療をする人を教育していくシステムが制度化されています。
国としても力を入れていたのがわかります。
その後の時代に少しずつ日本各地に鍼治療が広がっていくことになります。
ちなみに、鍼灸について記載がある日本最古の医学書とされるのは『医心方』というかなりボリュームのある書物。
そこには様々な病気や治療法が記されてぃすが、鍼治療にもかなりの量を割いて書かれています。
私も読みましたが、古い時代のものなのでさすがに間違っている記載もあるのですが、当時の熱量を感じますし、面白くて興味深いところもたくさんあります。
当時の鍼治療はそういった文献から何となく想像することはできます。
私は江戸期の鍼治療の文献が面白くて趣味としても学びとしても読むのが好きです。
古いものだから…エビデンスないから…としてしまうのは勿体ないものがたくさんあります。
ただ、書物というのは著者の頭の中のことを全て書くなんてことはありませんから、何度読み返して想像してみてももやっとした感覚が残ります。
臨床の中で思い当たり、また新旧様々な文献を照らし合わせて想像する。
日々この繰り返しです。
鍼灸の歴史には、まだわかっていないことがたくさんあります。
研究で得られる新たな情報や知見を取り入れつつ、かつての鍼灸の姿を考えながら自分の鍼灸を深めていくのもまた面白いと思っています。
現代の鍼治療はどうなの?
現在では、中国、韓国、日本などアジアの国だけでなく、世界中で鍼灸が行われるようになり多様化しています。
鍼灸は歴史が長いため様々なやり方や考え方が生まれてきました。
その時代の医学以外の知識や技術が影響してくるのは当然として、その他に時代や制度の影響を受けたり、土地柄や気候、流行病、風習、思想、仕事などの影響を受けつつ変化してきました。
そのため、鍼自体は同じようなものを使ったとしても運用のベースとるものが全く異なるということもでてきます。
また、人も身体も僅かずつ変わっていると思われます。
長い年月の間に環境も食べ物も変わりました。
内臓の持つ機能も、皮膚や筋肉などの組成も、身長体重などの体型も変わっています。
古代と現代では全く生活が違います。
生活が変われば身体が変わります。
心身の負担がかかるところも変わります。
それに合わせて鍼も変わっていきます。
そういう変化の中で、アジア圏だけでなくアメリカやヨーロッパでも鍼灸が行われ広く知られるようになってきました。
それは、同じ時代の中で全く異なる文化や異なる体質の人に対して鍼灸が行われるようになったということであり、アジアとは異なる視点で鍼が捉えられ研究されるようになったということです。
鍼灸の多様性というかガラパコス的な面では日本も相当なものがありますが、それとは違った意味で多様化されていくように思います。
そこから更に鍼と鍼治療が発展していく可能性につながっていると感じます。
鍼の材質は何?
ほとんどの鍼はステンレス製ですが、他の材質の鍼もあります。
様々な国で行われるようになった鍼治療ですが、使用される鍼自体はどの国でもそれほど大きくは違いません。
それぞれの国や土地で人の好みの傾向も医療制度も異なるため中国でしか使わない鍼や日本でしか使わない鍼もありますが、これからはドイツでしか使わない鍼やカナダだけで使われる鍼というものが出てくるかもしれません。
とても楽しみです。
材質としては、どの国でもステンレス製の鍼が最も多く用いられています。
当院で用いている鍼もステンレス製が中心です。
他の素材としては、金、銀、銅、鉄、真鍮、アルミニウム、プラチナ、チタン、樹脂などからも鍼が作られます。
金属へのアレルギーがある方にはそこに配慮して施術を組んでいきます。
ちなみに、鍼灸の歴史の中では新しい部類に入る鍼ですが一般にも割と知られている鍼の一つに円皮鍼(えんぴしん)と呼ばれる鍼があります。
置き鍼(おきばり)という呼び名のほうが知られているかもしれません。
長さ1ミリ前後の極小の鍼を、テープで皮膚に貼り付けて使います。
当院では院内で一時的に使用したり、セルフケアなどで用いることがあります。
その他、鑱鍼(ざんしん)、圓鍼(えんしん)、鍉鍼(てい鍼)と呼ばれるような、鍼灸師以外の人なら鍼だと気づかないような形状のものもあります。
これらの鍼はチタンなどアレルギーが起こりにくい金属を使用した製品も多くあります。
また、鍼のほとんどは機械化された工場で製品化されます。
そのおかげで私たち鍼灸師は高品質で衛生的な鍼を大量に仕入れることが可能になりました。
しかし、現代でも職人さんが一本一本作る鍼があります。
優れた職人さんが作るものは他では代用が利きません。
大量生産される鍼と一本ずつ作る鍼。
どちらもあるから鍼灸師それぞれが思うように鍼灸ができるのではないかと思います。
本当に有難いことだと思います。
実際の鍼治療ってどうやるの?
鍼治療は「鍼をうつ」「鍼をふれさせる」ことを通して様々な症状・状況・体質などにアプローチしていきます。
ただし、鍼治療には世界共通の「これが鍼治療だ!」というような決まった型はありません。
使っている鍼は同じようなものですが、その使い方が鍼灸師によって様々です。
鍼治療は「鍼を用いる」ということしか共通点が無いと言っても良いほどに多様です。
はり師によって、また患者さんの体質・症状などにより、用いる鍼の種類、鍼の打ち方、鍼を打つ場所、施術時間など様々です。
同じ人への鍼治療だとしても、毎回同じ内容になることはまずありません。
その場その時で症状も体も変化しています。
それに合わせて鍼の用い方も変わります。
ツボって何?経穴?奇穴?
結論から言うと、残念ながらツボが何なのか、どういうルートで作用しているのかというのは未だに謎です。
ツボという呼び名は一般的にも浸透していますし、鍼灸治療を受けたことがある人は「このツボは×××××のような作用があって」といった表現を聞いたことがある人も多いかもしれません。
謎が多いといっても鍼灸学校ではツボについて部位や作用のざっくりとしたところは学びます。
学校で学んだ基礎からどこまで発展させて突き詰めていくのかは鍼灸治療への考え方によっても変わりますが、私はツボの存在や作用を重要だと考えています。
ツボは専門的には腧穴(しゅけつ)や孔穴(こうけつ)などと呼ばれています。
また、特定のルート上にある経穴(けいけつ)や、それとは別の基準である奇穴(きけつ)に分けられたりもします。
だいぶざっくりな説明ですが。
よくある症状で例をあげてみると、
・腰痛には◯◯(例えば後渓、三間など)
・肩凝りには◯◯(例えば合谷、天井など)
・五十肩には◯◯(例えば少沢、天宗など)
・喘息には◯◯(例えば定喘、孔最など)
・花粉症には◯◯(例えば太陽、太衝など)
・生理痛には◯◯(例えば関衝、関元など)
・皮膚炎には◯◯(例えば少府、風市など)
・逆子には◯◯(例えば三陰交、至陰など)
などと言われたりします。
ツボの研究報告は数え切れないほどありますが、なぜそこにツボがあるのか、ツボがどう作用しているのかというような根本的なメカニズムはまだ解明されていません。
研究は積み重ねされていますが、まだまだ時間が必要です。
謎は多いですが、現実に鍼灸でツボと毎日向きあっていると、鍼灸師ながらその奥深さに驚くことが多々あります。
他の施術と一緒に行っても良いの?
良いです。
鍼治療単独で行うこともありますし、他に灸やマッサージなどを加えて全体を組み立てることもあります。
その場、その時、その人に合わせて考えていきます。
その人にとって何が必要でどうすればよいのかを考えて実行していくことは全ての医療に共通することです。
いま必要としていることを行う。
当たり前のことですが、これが大切です。
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